AIに連絡文を任せるのが怖いのは正しい。でも、その仕事は区切れる

仕事終わりだと言うのに、似たような文面をひたすら打っている

教室や店をやっていて、お客さんや生徒さんへの連絡を全部自分の手で打ってる人、けっこういると思うんだよね。振替の連絡、持ち物のお知らせ、来月の予定。一通一通は三分で終わるのに、夜になると八通十通と溜まっていて、気がついたら一時間経ってる。

で、周りから「そういうのはAIに書かせたら早いよ」と言われる。確かに早いんだろうね。でもそこで、すっと冷たいものが背中を走る。もし機械が書いた文がそのまま届いて、相手が「あ、この人、AIに書かせたんだな」と感じたら。何年もかけて積み上げたものが、一通で崩れるんじゃないか。そう思って、結局また自分で打っちゃう。

この記事で言いたいのは、その怖さは正しいということ。そして、怖いのは連絡そのものじゃなくて、一通の中のごく一部分だけなんじゃないか、ということだと思うよ。線を引く場所が分かれば、夜の一時間のうち大半は手放せる。残すのは、たぶん一行なんだよね。

一通のお知らせを、成分に分けてみる

今週、AIの危険は“間違った答え”だけではない…AIエージェントに「任せてはいけない領域」という記事が出てて、AIの怖さは間違った答えを出すことだけじゃなく、任せてはいけない領域を切り分けないまま渡してしまうことにある、という話だったわけよ。

これを読んで、オジイが引っかかったのはそこじゃなかった。「任せてはいけない領域」って言われた瞬間に、人はそれを業務の名前で区切ろうとするんだよね。経理は任せていい、集客の文章は任せていい、でもお客さんへの連絡はダメ、みたいに。

でもこの区切り方をすると、連絡業務が丸ごと聖域になる。聖域になるってことは、夜の一時間が永久に自分に残るということだと思うんよ。なんも解決してない。

じゃあ実際の一通って、どういう成分でできてるか。試しに、教室の先生が送りそうな文を並べてみるね。

○○さん、こんばんは。
今週の土曜のレッスンですが、私の都合で17時からに変更をお願いできますか。すみません。
持ち物はいつも通りで大丈夫です。
先週、最後のところを何度も直してましたよね。あれ、ちゃんと形になってましたよ。焦らずで大丈夫です。
ではよろしくお願いします。

これ、分けられると思わんかいね。「土曜、17時に変更」「持ち物は通常通り」——ここは誰が書いても中身が変わらない。日時と持ち物という、事実を運ぶだけの部分だわけよ。

一方で「私の都合で」と自分の側に理由を置いてるところ、「先週、最後のところを何度も直してましたよね」と相手を見ていたことを示すところ、「焦らずで大丈夫です」と急かさないところ。ここは、この先生じゃないと書けない。相手との関係を支えてる気遣いの部分さ。

同じ一通の中に、この二つが混ざって同居してる。それを丸ごと一つの「連絡業務」って名前で括るから、全部任せるか全部自分でやるかの二択に見えてしまう。オジイはそこが、もったいないところだと思うんだよね。

事実を運ぶ部分だけなら、八通のうち七通分は機械が書いても、相手には何も伝わらない。伝わるとしたら、それはもともと事実の部分じゃなく、関係の部分の書き方が変わったときなんじゃないかね。

守っていたのは、書き方の癖じゃなかった

ここで多くの人がやろうとするのが、自分の文体をAIに真似させることだと思うよ。「私の口調を覚えて」「絵文字はこう使って」みたいに。

でもね、たとえば十年通ってくれてるお客さんが読み取ってるのは、たぶん語尾や絵文字じゃない。「この人はこういうとき、こういう言い方をしない人だ」という、「書かなかったこと」の積み重ねのほうだと思うんだよね。

人の心の動きを長いこと見てきて、つくづく思うのはそこさ。人が相手に対して抱く信頼って、何を言ったかよりも、言えたはずなのに言わなかったことで作られてる部分が大きい。値上げの連絡に言い訳を並べない。休んだ人に「どうしたんですか」と踏み込まない。うまくいかない生徒に「もっと練習を」と書かない。書こうと思えば書ける。書かない。その判断が毎回一貫してるから、相手は安心して背中を預けられる。所謂「空気を読む」ってやつやっさ。

だから、真似させるべきは文体の癖じゃなくて、その判断のほうなんじゃないかねぇ。
わざわざ言わない、暗黙のルール的な。

やっかいなのは、その判断を自分で言葉にできてる人がほとんどいないってこと。自分は毎回ちゃんとやってるのに、何をどう判断してるのかを説明しろと言われると出てこない。手が勝手に避けてるだけで、頭の中に条文があるわけじゃないからね。

言葉になってないものは、AIに指示として渡せない。渡せないから、全部自分でやるしかなくなる。ここが、夜の一時間が減らない本当の理由だと思うわけよ。

前にAI生成画像を使うとき、「権利は誰のもの」より先に確認すべきことがあるで、指示と選択の根拠が残ってないと自分の判断を説明できなくなる、という話を書いたけど、構造としては同じところに来てる。自分の判断が自分の外に出てないと、任せる相手にも渡せないし、いざというとき自分でも取り出せない。

それとはまた違う見方もできてね。そもそも「任せてはいけない領域」って、自分の外側に業務のリストとして置いてあるものじゃなくて、一通のLINEの中に事実と関係として混ざって入ってるんじゃないか、と。だとしたら線を引く場所は、業務の名前じゃなくて文の中身のほうだと思うんだわけ。

自分の線引きを、目に見える形で手に入れる

ここまで書いた部分にどこか引っかかりを覚えた人向けなんだけど、まず一度、自分の判断を外に出してみてほしいんだよね。今日やることは、書くことじゃなくて、自分が既に書いたものを読ませることさ。

1. 過去に送った連絡文を三〜五通そのまま貼って、分解させる

スマホの送信履歴から、内容の違うものを選んで(変更のお願い、お知らせ、お詫び、あたりが混ざってると精度が上がる)、ChatGPTなりClaudeなりに、これをそのまま貼り付けて投げてみてほしい。名前は伏せて構わない。

あなたは、書き手の対人的な判断を読み解く分析者です。以下は、私が実際にお客様に送った連絡文です。これを分析してください。

条件:
・まず各文を「事実の層(日時・金額・持ち物など、誰が書いても内容が変わらない部分)」と「関係の層(相手との関係を保つために書かれている部分)」に分類し、表で示してください
・次に、関係の層から読み取れる「この書き手が大事にしていること」を5つ、推測ではなく断定の言い切りで書いてください
・次に、「この書き手が書こうと思えば書けたのに、あえて書いていないこと」を3つ挙げ、なぜ避けていると考えられるかも添えてください
・次に、「この書き手が絶対に使わないであろう言い回し」を5つ、例文つきで挙げてください
・最後に、以上をまとめて「この書き手の関係の層のルール」を、箇条書き7行以内で作ってください
・褒める必要はありません。分析だけしてください

【連絡文】
(ここに三〜五通をそのまま貼る)

2. 出てきたものを、手で直す

ここが本番だと思うよ。出てきた分析を読んで、「これは合ってる」「これは自分じゃない」を手で書き換えていく。特に「あえて書いていないこと」と「絶対に使わない言い回し」のところ。読んだ瞬間に「いや、そこまで言い切らない」と胸がざわっとしたら、そこが自分の線引きさ。

出てきた結果を「これがあなたです」と受け取らないこと。当てにいくものじゃないんだよね。違和感が出たところを直す、その手の動きの中にしか、自分の判断は出てこない。合ってる部分より、違う部分のほうが値打ちがあると思うよ。直し終わった7行が、今まで一度も言葉になってなかった自分のルールね。
細かい部分になるけど、改行の仕方や語尾の癖なんかもしっかりと読み取ってほしいやっさ。

3. そのルールを渡して、事実の層だけ量産させる

直した7行を持って、こう投げる。

以下は、私がお客様に連絡するときの「関係の層のルール」です。
(ここに直した7行を貼る)

これから伝える用件について、連絡文の下書きを作ってください。

条件:
・事実の層(日時・場所・持ち物・金額など)だけを書いてください
・挨拶、気遣い、励まし、お詫びの言葉は一切入れないでください
・上記ルールに照らして「ここに書き手自身の一行が要る」と思う箇所には、文中に〔一行〕とだけ置いてください。その中身は書かないでください
・複数の用件をまとめて渡した場合は、宛先ごとに分けて出力してください

【用件】
(ここに今週分の用件を箇条書きで並べる)

これで返ってくるのは、事実だけが整った骨組みと、〔一行〕という空欄さ。あとは、その空欄に自分の言葉を一行入れるだけ。八通あっても、書くのは八行だと思うよ。

夜の一時間が、たぶん十五分になる。しかも削られるのは、相手に届く部分じゃなくて、誰が書いても同じだった部分のほうなんだよね。

とはいえオジイ、こないだ友人に送るメッセージを書き直して、結局そのまま送らんかったわけよ。あとで「既読スルーしよってからに」と言われてね。書かないことで伝わるものもあれば、書かなかったせいでマイナスに伝わることもある。忘れっぽいオジイが悪いんだけど、信頼の対価を払うのは積み上げてきた関係性だなぁと、しみじみと自分を正当化しながら言い訳をしよるのであった。
ってことで、次回もお楽しみにね〜。