納品前夜、結局ぜんぶ自分で見直してしまう人へ
AIに下書きを作らせた。文章も、構成案も、ちゃんとそれっぽく出てきた。それなのに納品前になると、結局はじめから全部自分で読み直して、気づいたら深夜2時。あれ、これって楽になっているのかねぇ、と手が止まる瞬間があるんじゃないかね。
道具が足りないんだろうか。使い方が下手なんだろうか。そう思って新しいツールの記事をまた読む。でも、もしかしたら原因はそこじゃないのかもしれんと思うようになったわけよ。任せられないんじゃなくて、「どこまで任せていいか」の線を、自分でもまだ言葉にできていないだけなんじゃないかねぇ。
選択肢が一つ増えるたびに、決めごとが一つ増えている
今週、Microsoft、CopilotにGrok追加 プレビューで順次提供というニュースが出ていた。Wordやエクセル、パワーポイントの中で使えるAIに、また別のモデルが選べるようになった、という話だと思うよ。まずは一部のユーザー向けのお試しから、ということらしい。
普通に読めば「選べる方がいいよね」で終わる話でしょうね。でもオジイは、これを読んだときに真っ先に「うわ、また選ばないかんのか」って思ったわけ。便利になったというより、朝起きて服を選ぶ引き出しが一段増えた感じというかね。引き出しが増えて嬉しいのは最初の三日で、そのあとは毎朝の判断が一個増えるだけなのよね。
で、結局いつもの服を選ぶっていう。
自分のことを言うと、この前、自分で組んでるシステムをいじっていて、しょーもない発見をしたわけよ。大事な決めごとを、ちゃんと記録しておく場所は作ってあった。毎回ログは取ろうと。作った自分は「これで安心」と思っていた。ところが、いざ聞いたら「わかりません」と返ってくる。記録はしてあるのに、それを呼び出す手段の方を、自分が作っていなかったわけさ。
とりあえず保存しとけって、活用しないのにデータだけ重くなるアレよね。
これ、笑い話みたいだけど、後からやろうと思って先延ばしにしちゃうことってあるよね?「何を任せるか」は考えていたのに、「どう任せるか」は先延ばしにしてた、ということなのよね。置いた本人が思い出せない仕組みを、自分で作っていたわけ。
深夜2時に全部読み直しているのも、たぶん同じ形をしていると思うよ。AIに預けはした。でも、預けたものをどこで確認して、どこは見なくていいのか、その線を決めていない。だから全部が確認対象になる。超絶面倒くさいけど当たり前なんだよね。
昔、人に仕事を振っていた頃、何を見ていたか
昔、チームで制作をしていた頃のことを思い出したのよね。誰にどの作業を振るか、毎回決めていた。あれ、今思えば、あの振り分けそのものが仕事の中身だったわけよ。
で、そのとき何を見て決めていたか。これがね、「その人が上手いかどうか」じゃなくて。もちろん上手さも見るんだけど、決め手はそこじゃない。決め手は「これがコケたとき、リカバリが効くか」なんだわけ。
戻しが効く作業は、多少心配でも振った。あとで直せるから。逆に、一回出したら取り返しがつかないもの——先方に直接届くもの、期日がギリギリのもの、その人の名前で外に出るもの——これは自分で握った。能力の問題じゃなくて、失敗したときの深さの問題なのよね。
だから振り分けの基準は、その人の側にあるんじゃなくて、こっちの中にある。同じ人でも案件によって振る範囲が変わる。それは相手を信用していないからじゃなくて、こっちが背負える傷の深さが案件ごとに違うからでしょうね。
AIが何人分も並んで選べるようになった今、この基準が急に必要になってきたんだと思う。前は「AIに聞いてみるか」の一択だったから、何も決めなくても回っていた。今は違う。誰にどれを、どこまで。この判断が、毎回こっちに返ってくる。
それとはまた違う解釈になるけど、モデルが増えることを「AIが人間の仕事を取る」方向で読む人もいると思うのよね。でもオジイは逆に見えた。選択肢が増えるほど、選ぶ人の仕事は増える。そして選ぶというのは、コケたときに自分で責任を取るということなんだわけ。便利さの裏に、責任がそっと同梱されて返ってきている。
以前、AIに「パクられる」より怖いのは、「選ばれなくなる」ことだったで、作品として世に出るのは判断の痕跡でしかない、という話を書いたことがある。あのとき言った「判断」というのも、要はこれなのよね。どこまでを自分で決めて、どこを手放したか。その線引きは、成果物の中には一切写らない。写らないから、自分でも忘れる。
自分の「ここは絶対に自分だ」を、AIに見つけさせる手土産
ひとりで制作を請け負っている人向けの話だと思ってほしい。デザインでも、文章でも、映像でも、写真でも。
やることは一つ。直近で終わらせた仕事を一件思い出して、下のプロンプトをまるごとコピーして、使っているAIチャット(ChatGPTでもClaudeでもGeminiでもいい)に貼るだけ。カッコの中だけ自分の言葉に書き換えてね。
あなたは制作現場のディレクション経験が長い進行管理の専門家です。
以下の条件で、私の仕事の工程を分解し、振り分け案を作ってください。
【私の仕事】
職種:(例:フリーランスのグラフィックデザイナー)
直近の案件:(例:飲食店の新メニュー用チラシ制作、納期2週間、単価◯万円)
使っているAI:(例:ChatGPTで文章のたたき台、画像生成は未使用)
【条件】
1. まず、この案件を最初から納品までの工程に分解してください。
工程は10〜15個程度、実際の作業単位で細かく出すこと。
2. 各工程を、以下の3段階に仮の振り分けをしてください。
A:AIに任せてよい(出力をほぼそのまま使える)
B:AIにやらせて人が確認すればよい
C:人が最初から最後まで握るべき
3. 各工程について、なぜその段階にしたのかを一行で書いてください。
その理由には必ず「もしここで失敗したら何が起きるか」を含めること。
「AIが苦手だから」のような能力の話ではなく、
「やり直しが効くか/効かないか」の観点で判断すること。
4. 出力は表形式で、列は「工程/段階(A・B・C)/そう判断した理由」。
5. 最後に、あなたの振り分け案の中で
「この人は反対するかもしれない」と思う工程を3つ挙げ、
なぜ反対されそうかを書いてください。
【出力してはいけないこと】
・一般論としてのAI活用アドバイス
・私を励ます言葉
・「ケースバイケースです」という留保
出てきた表を、ざっと眺めてみてほしい。読み方のコツは一つだけで、納得した行は飛ばして、カチンときた行だけ見ること。
「いや、ここは絶対に自分だろう」「これをAって言われるのは違う」。そう思った行が必ず一つか二つある。そこがあなたの判断の核なのよね。納得した行には何も入っていない。反論したくなった行にだけ、あなたが今まで言葉にしてこなかった線引きが埋まっている。
そしたら、その行をAIに投げ返してほしい。
「(工程名)」をAと判断されたが、私はこれは自分が握るべきだと感じた。
私がそう感じる理由として考えられるものを5つ、仮説として挙げてください。
そのうえで、5つのうちどれが私の本当の理由か特定するための質問を、
1つだけしてください。
自分の中にある理由って、自分では言えないのよね。「なんとなく嫌」で止まる。でも他人が並べた5つの候補を見ると、「これは違う、これは近い」が分かる。AIに正解を出させるんじゃなくて、AIが並べた選択肢に自分がズレる感覚を使って、自分の基準を輪郭だけ取り出す、ということなんだわけ。
大人になるとよ、理不尽な理由以外で怒られるってことを自分自身の糧にする機会って減っていくからよ。
ここまでやると、手元に「自分が絶対に握るもの」が一つか二つ、言葉として残る。それ以外は、次の案件から確認をゆるめてみていい。全部を見直さなくなった分だけ、深夜2時が1時になる。それくらいの話だと思うけどね。
そういえば、リモコンの電池が切れたとき「充電池買ってこなきゃ」って言ったのが三週間前で、そんなに使わないモニターのリモコンに入ったままなのよね。握ると決めたものほど、手をつけずに置いてある。自分で作っているAIエージェントの方も、任せる線はずいぶん書き込んだのに、「ここは自分でやる」と決めた側のリストが一番渋滞しているあたり、どこに線を引いていつまでにどこまでやるかっていうタスク処理も「ノリ」っていう勢い任せものものにしちゃってるっていうのもオジイの悪いところかもしれんね。
ってことで、また次回もお楽しみに!


